大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)692号 判決 1981年1月30日
原告 株式会社藤田商店
被告 久保孔男
主文
一 被告は別紙図面記載の図柄を付した商品(ハンドバツグ等皮革製品)を販売し、拡布してはならない。
二 被告はその所有にかかる第一項記載の商品の完製品、半製品およびその原材料である右図柄を付した皮革について、右図柄を抹消しなければならない。
三 被告は原告に対し金五〇万円およびうち金三〇万円に対する昭和五四年二月二二日から、うち金二〇万円に対する昭和五五年七月一九日から、各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
六 この判決の第三項は仮に執行することができる。
事実
第一申立
(原告)
一 被告は別紙図面記載の図柄を付した商品(ハンドバツグ等皮革製品)を製造、販売、拡布してはならない。
二 被告はその所有にかかる第一項記載の商品の完製品、半製品およびその原材料である右図柄を付した皮革を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し金一七二万円および内金一〇〇万円に対する昭和五四年二月二二日から、内金七二万円に対する昭和五五年七月一九日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第三項についての仮執行宣言。
(被告)
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求原因
1 不正競争行為の差止請求
一 原告の商品表示(商品の図柄)とその周知性
(1) 原告は輸出入業を目的とする会社であり、昭和四三年頃よりフイリツプ・カセグラン創作にかかる別紙図面記載の図柄(皮ベルトの交差個所に競走馬の図柄を組みこんだいわゆる「ロンシヤン図柄」)を付したハンドバツグ等の皮革製品をフランスから輸入し日本国内において販売しているものである。
(2) しかして、原告は右販売については当初からその発売元であるフランス法人有限責任会社ジヤン・カセグラン社との契約によつて日本における独占販売権を取得しており、これにより右図柄を付した商品を独占的に販売してきたのであつて、原告の販売努力の結果、右図柄は昭和四六年頃には我国における著名な図柄となり、右図柄を付した商品といえば原告が販売する商品であることが周知されるに至つた。すなわち、右図柄は遅くともその頃までに原告の商品表示として我国の取引者、需要者間に広く認識されるに至つているものである。
二 被告による模造品の製造販売
被告は皮革製品の製造販売を業とするものであるところ、昭和五三年三月初め頃から同年末頃までの間右「ロンシヤン図柄」と全く同一といつてよいほど酷似した図柄を付したハンドバツグを製造販売した。
三 原告商品との混同惹起
右の如く原告の商品表示と全く同一とみられるほど酷似した図柄を付したハンドバツグ等の皮革製品が販売されたとき、それが取引者ないし需要者間にあたかも原告の商品であるかの如き誤認混同を生ぜしめることは明らかである。
四 営業上の利益を害せられるおそれ
被告が右の如き誤認混同を生ぜしめる商品を販売する限り、原告の営業上の利益が害されるおそれの存することはいうまでもない。
2 損害賠償請求
一 被告の不正競争行為(違法行為)と故意過失
被告が前記のように原告の「ロンシヤン図柄」と全く同一といつてよい図柄を付したハンドバツグ等を製造販売していることが不正競争防止法一条一項一号所定の違法行為であることは前述のとおりである。
そして、被告は皮革製品の製造販売を業とする者として右の如き図柄を付したハンドバツグ等原告商品の模造品を製造販売することが不正競争行為であることを知りながらこれを行つたものであり(被告は、原告が右模造品の製造販売に気づき再三被告に対しその中止を求めたにもかかわらず、原告の右請求は全く理由がないと称してこれを無視して右模造品の製造販売を継続したものである。)、少くとも右業者として当然これを知るべきであつた。したがつて、被告は故意または過失によつて不正競争行為をしたものとしての責任を免れない。
二 原告の損害
原告は被告の前記不正競争行為(違法行為)により左記のとおり合計一七二万円相当の損害を蒙つた。
(一) 販売利益の喪失損害 金七二万円
被告は昭和五三年三月初め頃から同年一二月二七日までの間に前記図柄を付したハンドバツグを少くとも一二〇個は製造販売したものであり、その小売店への卸売価格は平均一万二五〇〇円(小売店での小売価格平均二万五〇〇〇円の半額)である。そして、右ハンドバツグの製造原価は右卸売価格の半額であるから、被告は右ハンドバツグ一個につき少くとも六〇〇〇円の販売利益を得、合計七二万円の利益を得ている。
しかるところ、原告は前記の如く「ロンシヤン図柄」を付した商品の独占的販売権者であるから、被告の前記不正競争行為がなければ原告が自からこれを販売し少くとも被告が得た右利益と同額の利益を得られた筈である。しかるに、被告の右不正競争行為によりこれを失い同額の損害を蒙つた。
(二) 慰籍料(無形損害) 金五〇万円
被告は前記の如く原告の再三にわたる模造品の製造販売の中止催告にもかかわらず品質の劣る模造品の製造販売を継続したものであり、これにより原告はその営業上の信用を毀損されたほか単に前記販売利益の補填では償いきれない無形損害を蒙つた。これに対しては金五〇万円を下らぬ慰籍料が支払われるべきである。
(三) 弁護士費用 金五〇万円
被告の前記不正競争行為につき、原告は本訴代理人たる弁護士に対しその差止めの仮処分申請と執行および本件訴訟手続を委任し、そのために着手金五〇万円を支払つたほか相当額の成功報酬を支払う旨約定した。したがつて、原告は少くとも右着手金(弁護士費用)五〇万円相当額の損害を蒙つている。
3 結論
よつて、原告は被告に対し(1)不正競争防止法一条一項一号の規定により前記請求の趣旨第一項記載の行為の差止めと(2)同第二項記載の物品の廃棄および(3)同法一条の二第一項の規定により前記損害金一七二万円とその内金一〇〇万円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年二月二二日から、残余の金七二万円に対する請求の趣旨拡張の申立をした第一準備書面が送達された日の翌日である昭和五五年七月一九日から各支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求する。
被告の後記自白の撤回には異議がある。
第三被告の答弁および主張
一 請求原因1の一の事実は不知。同二の事実のうち、被告が皮革製品製造業者であることおよび原告主張のような図柄の皮製ハンドバツグを製造した事実は否認するが、その余は認める(被告は当初被告が皮革製品製造業者であることを認めたが、右は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるから右自白を撤回する。)。被告は零細な皮革製品のブローカーであり原告主張の頃にその主張の如きハンドバツグをいくらか仕入れて販売したことはあるが、自からこれを製造した事実はない。同三、四の事実は争う。
請求原因2の事実は全て争う。
二 被告は原告主張の図柄が「ロンシヤン図柄」といわれるものであることや右図柄を付した商品が原告の独占販売品であること等は全く知らなかつた。
ただ、被告は前記の如く原告主張の頃にその主張にかかる図柄の付されたハンドバツグをいくらか仕入れて販売したことはあるが、右の如き商品は本来被告の扱う主力商品ではなく一時的に取扱つたものにすぎず、その仕入販売量も極く僅かなものであつた。
被告は昭和五三年四月頃原告から右図柄は原告が意匠登録出願中のものであり原告が独占的に使用し得るものであるという理由で右ハンドバツグの販売中止の催告を受けたことはある。しかし、その頃小西常太郎弁理士に相談したところ、原告の右催告は理由のないことを知らされたのでそのように信じていた。ただ、その後大阪地方裁判所より右商品を執行官保管とする旨の仮処分決定を受けたので、その後は一切右商品を取扱つておらず、また将来においてもこれを取扱う意思はない。
以上の次第で、被告は何ら原告主張の如き不正競争行為をする者ではなく、前記販売行為についても不正競争防止法にいう故意、過失は存しない。
第三証拠<省略>
理由
1 差止請求について
(一) 成立につき争いのない甲第二号証の一、二、証人井上岱の証言(第一回)により真正に成立したと認める同第一号証の一、第三、第四号証の各一、第五ないし第七号証、様式体裁により真正に成立したものと認める甲第三号証の二、三、第四号証の二、第八号証、右証人井上岱の証言(第一回)ならびに弁論の全趣旨に照らすと、請求原因1の一の事実(原告の商品表示とその周知性に関する事実)を肯認することができ、右認定を左右する証拠はない。
もつとも、前掲各証拠によると、「ロンシヤン図柄」皮革製品の世界における創始発売元は原告主張のフランス法人であることが認められ、このことからすると、あるいは右図柄は、我が国においても、右フランス法人を出所とする商品の周知表示と解しうるところでもある。しかし、かりにそうだとしても、それが故に直ちに右表示が原告を出所とする商品の周知表示であることを否定することはできない。前記認定事実によれば、我が国においては、原告がつとに昭和四三年頃以降独占的に右図柄の付された商品を輸入販売してきたのであつて、(昭和五二年三月には原告と右フランス法人との間で右図柄の付された商品の全世界的独占的販売権を原告に付与することについての了解もなされている点も参照。甲第一号証の一、二。)、原告の販売努力が右図柄を我が国において著名なものとするにあずかつて力があつたことが明らかであるから、我が国においては原告主張の頃には右図柄の付された商品といえばほかでもない原告の販売する商品であることが、少くともハンドバツグ取扱業者間において、広く認識されていたと認めるに何らの妨げはない(一個の商品表示は必らず一個の出所を表示する機能しか持ちえないと解さなければならない合理的な理由はない。また、周知表示によつて認識される出所は必らずしも正確な名―例えば「株式会社藤田商店」とか「有限責任会社ジヤン・カセグラン社」というように―で認識されていなければならないものでもない。)。
次に、被告が原告主張の頃にその主張の如き図柄を付したハンドバツグを販売したこと(請求原因1二の事実の一部)については当事者間に争いがない。
また、前掲各証拠によると、請求原因1の三、四の事実(混同惹起および営業上の利益侵害のおそれに関する事実)を認めるに十分である。
(二) そうすると、原告の本件差止請求は理由がある。ただし、(イ)原告は右ハンドバツグの製造行為の差止も求めているが、もともと製造行為自体はいまだ不正競争防止法一条一項一号の他人(原告)の周知表示を使用しまたはこれを使用した商品を販売、拡布、輸出する行為のいずれにも該当しないから、右製造差止請求の部分は理由がない。(ロ)また、原告の訴求する差止態様のうち申立の趣旨二項の廃棄処分請求については、本件のような場合の差止め実現のための具体的態様はなるべく商品(皮革製品)自体の効用をそこなわない範囲で必要かつ十分な程度のものであるべきであるから、廃棄処分は商品表示の差止めとしては行き過ぎで、図柄の抹消をもつて十分であると考える(経験則に照らし、染直し、塗りつぶし等の方法により皮革表面の図柄だけの抹消は技術上可能であると解される。)。
2 損害賠償請求について
一 被告の不正競争行為(違法行為)と故意過失
被告の前記図柄を付したハンドバツグ販売行為が不正競争行為になることは前記のとおりである。
そして、前記原告商品の周知性に関する事実や被告が皮革製品の販売業者であることに照らすと、被告は右ハンドバツグを販売することが不正競争行為になることを知りながら、そうでなくとも右業者としてこれを知るべきであつたにもかかわらずこれを知らないで、右販売を行つたものと認めるのが相当である(なお、成立に争いのない甲第一七号証の二や被告本人尋問の結果によれば、被告はその販売する商品がいわゆるコピーもの、すなわち他人の商品の模造品であることを充分認識していた様子が十分に窺える。)。
二 原告の損害
(一) 販売利益の喪失損害 金一〇万円
右損害に関する原告の主張は、被告が前記ハンドバツグを自から製造したことを前提として被告の得た利益を推計しこれを基礎として原告の損害を算定するものである。そして、前掲井上証人の証言(第一回)によると、被告販売の模造品を製造する場合、図柄を原皮に印刷する費用等を考慮し採算性の点を考えると、被告は少くとも原皮三〇枚に印刷し最低一二〇個のハンドバツグを製造販売して原告主張のとおりの利益を得たものと推測されるというのである。
そこで、被告の右製造事実の存否について検討するに、被告は本訴において、当初は自からが皮革製品の製造業者であることはこれを認めていたほか(ただし、本件図柄付ハンドバツグの製造については終始否認。なお、原告は右主張の変更を自白の撤回として異議を述べているが、被告が皮革製造業者であるか否かは本訴においては間接事実にすぎないのであるから、この点に関する主張の変更撤回は許されると解される。最判昭和四一年九月二二日判決民集二〇巻七号一三九二頁)、いずれも成立につき争いのない甲第一一ないし第一七号証の各一、二、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二一号証、前掲井上証人の証言(第一回)により成立を認むべき甲第一八号証および右証人の証言によると、(1)原告の代理人たる本訴代理人弁護士が本訴提起前右ハンドバツグの小売業者である「まるそう」(または「マルソウ」)こと宗徳秩士や被告の代理人たる小西常太郎弁理士に右製造販売行為は不正競争防止法に違反するとしてその中止を申入れた(甲第一一、第一三号証の各一、第一八号証)のに対して、被告は右代理人を通じて右原告の不正競争防止法違反の主張は法律上理由のないものであると回答したさいには、自から積極的に右製造の事実を肯定し(甲第一二号証の二)、かつて類似図柄を染色した皮革を購入したところ皮質が悪く不評をかつたので他の皮革商に相談し皮質を上等にし染色も注意して貰つたところ好評であつた、というようなことまで具体的に述べていること(甲第一九号証の一)、(2)そこで、原告は大阪地方裁判所に被告に対する右不正競争防止法違反禁止の仮処分申請をした(同庁昭和五三年(ヨ)第五二〇六号事件)のであるが、同年一二月二七日になされた右事件の仮処分決定執行のさい、被告方に原告主張の図柄を付した裁断ずみの原皮三枚が存したことが確認されており(ただし、その大きさ等は正確には不明。甲第二〇号証)、さらには(3)右執行のさい原告代理人に同行した原告の従業員井上岱が、被告方に皮革製品の縫製用とおもわれるミシン二台がありかつ被告の妻が執行官に対し右図柄の付されたハンドバツグ一個について客から修理を依頼されたものである旨申出ているのを現認していること(右井上証人の証言)等の事実に照らすと、被告は前記ハンドバツグを製造したと疑われてもやむを得ない状況にあるというべきである。
しかしながら、他方、被告本人は当法廷での供述において、右小西弁理士の回答は、被告が同弁理士に相談したさい、ブローカーとして問題のバツグを「まるそう」に販売したことは事実である旨述べたのを誤解した同弁理士が自からの予測を混えてなしたものにすぎない旨弁疎しており、その点はしばらく措くとしても、右本人の供述によると被告が「まるそう」に販売した前記ハンドバツグは「サントク工芸」こと芦原某から購入したものであると述べており、また、右供述や弁論の全趣旨に照らすと原告主張の当時、被告以外の者で前記図柄と同様の図柄を付したハンドバツグを製造販売していたものが存することも明らかである。
これらの点を考慮すると、本件においては前記のような多くの情況が存するにもかかわらず、なお被告の製造事実およびその個数について直接的な証拠がないため、結局、被告が本件図柄付ハンドバツグを自から製造したと断ずることにはなおちゆうちよを覚える。
したがつて、前記損害額の算定について被告製造の事実を前提とすることは困難である。
そこで、改めて、右損害の有無およびその額についてみるに、前掲甲第二一号証、前掲井上証人の証言(第一回)により成立を認むべき甲第九、第一〇号証の各一、二、同証人の証言(第二回)により成立を認むべき甲第二二号証および被告本人尋問の結果によれば、被告は原告主張の頃に「サントク工芸」こと芦原某より前記図柄を付したハンドバツグを約六〇個を仕入れてこれを「まるそう」に販売し、そのうち約一〇個は前記の如く原告から警告が発せられるに及んで被告に返品されたが、被告は右販売により右ハンドバツグ一個につき最低二〇〇〇円(被告の仕入価格約八〇〇〇円と販売価格約一万円の差額)合計一〇万円の利益(返品のなかつた五〇個分の利益)を得たことが認められる。
そして、原告が前記の如く「ロンシヤン図柄」を付した商品の独占的輸入販売業者であり、また被告の販売したハンドバツグが販売可能であつたのは、ほかでもない原告の右周知表示を無断で利用し、その名声にただ乗りしたためであると考えられることを考慮すると、もし、被告の右販売行為がなければ原告はその頃実際に販売したよりも更に多くのハンドバツグを販売し少くとも被告が得た右利益程度の収益はあげ得た筈であつたと推認することができる。したがつて、被告の右販売行為により原告の蒙つた損害は少くとも右一〇万円を下廻らないと認められるが、これを超える額については確証がないというほかない。
(二) 慰謝料(無形損害) 金二〇万円
原告がフランスより輸入販売している皮革製ハンドバツグ等の商品は一般向雑誌等においても「世界の一流品」、「世界の逸品」として紹介されているものであり(前掲甲第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五号証)、これに付された「ロンシヤン図柄」が原告販売商品の商品表示としてすでに周知性を獲得していることは前示のとおりである。
したがつて、右表示については「世界の一流品」の商品表示としての信用が形成されていると考えられるところ、前掲井上証人の証言(第一、二回)によると被告の販売したハンドバツグは皮質が原告の販売品よりも悪く値段も安かつたというのであるから、かかる品質の劣る商品に原告の商品表示(すなわち「ロンシヤン図柄」)と同一または酷似の表示が付されかつ安価に販売されるときは右原告の商品表示のもつ信用(イメージ)が毀損され、原告の営業上の利益が害されたことは明らかである。
そして、前記の如く原告が被告に不正競争防止法違反を理由に右ハンドバツグの製造販売の中止を申入れたにもかかわらず被告は右申入れは理由のないものであるとしてこれに応ぜず、結局、前記仮処分申請をしてその防止をはからざるを得なかつたこと等の経過に照らすと、原告は被告の前記販売行為によりその営業上の信用を毀損され前記販売利益喪失による損害とは別にその補填のみでは償いきれない無形損害を蒙つていると認めるのが相当であり、これを金銭的に評価すれば金二〇万円を下らないというべきである。
(三) 弁護士費用 金二〇万円
前掲井上証人の証言(第二回)とこれにより成立を認むべき甲第二三号証の一、二によれば、原告は被告の前記販売行為に対処するため本訴代理人たる弁護士に前記仮処分申請とその執行および本件訴訟手続を委任し、その着手金および費用として金一一一万一一一一円(ただし、訴外人に対する関連告訴事件の分を含む)を支払い、かつその報酬として本訴における認容額の二割を支払う旨約定していることが認められる。
そして、前記本訴提起に至るまでの経過に徴すると、原告が右各手続を右代理人に委任したのはやむを得ないものであつたというべく、これに要した費用のうち相当範囲内のものは前記被告の販売行為(違法行為)と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
しかして、右各事件の事案の内容、本件訴訟の審理の経過、前記認定損害額等諸般の事情を考慮すると、右費用等のうち原告が被告に対し右違法行為と相当因果関係にある損害として賠償を求め得るものは金二〇万円と認めるのが相当である(なお、右損害額の算定にあたつては本訴では前記損害金請求のほかにこれと原因関係を殆んど共通にし実質上不法行為訴訟と同視し得る不正競争行為差止請求も訴求されかつ認容されていることも重要な要素になり得ると解すべきである。)。
3 結論
そうすると、原告の本訴請求中、差止請求については前示の理由により主文第一、二項の範囲で、損害金請求については合計五〇万円およびうち金三〇万円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年二月二二日から、うち金二〇万円に対する原告の第一準備書面送達の日の翌日である同五五年七月一九日から、各支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で理由があるが、その余の請求は失当である。
よつて、原告の本訴請求を右の限度で認容しその余を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 畑郁夫 上野茂 中田忠男)
別紙図面<省略>